古代の秀れた鋼についての解説『ダマスカス鋼』

古代製鉄の謎に魅せられて

 現代は鉄の時代がまだ続いており、(次第にアルミ合金やプラスチックや炭素ファイバーのような新材料の持用がふえてはいるが)、依然として、人類の最重要利用物質であることには変わりがない。

 大量に生産された鉄や鋼や軟鉄は高炉生産が主で安く高性能になってきていることは間違いがないところであるが、実は古代に確立された最も優れた製鋼の技術の方がはるかに秀れており、この古代製鉄の秘密がすべて明らかになっていないという大きな謎が存在する。

 当社では代表栁沼信久がこの非常に秀れた古代製鉄の謎に魅せられて長年の間研究を続けてきた。
古代製鉄のうち最も秀れたものを挙げれば奈良時代から鎌倉時代にかけて日本刀剣の材料に使われてた鋼が第1である。

ダマスカス鋼

 第2はインドで古来生産されて刀剣の材料となって中近東、西欧に刀として輸出された原料鋼のウーツ鋼(ダマスカス鋼)である。ウーツ鋼も日本刀全盛期の鋼もその強靭さと切れ味の鋭さと共に刀に加工されれば刀身の表面に出現する美麗な模様が美術品として昔から垂涎の的となっていることは云うを待たないことである。

 鎌倉時代までの日本の名刀には地景や金筋という光輝く線状の模様が刀身の表面に現れ、地沸という球状の模様も出現し、これが人間のつくった鋼かと思われるような美しい表面をつくり出す。そこに刃縁の沸や匂という模様が現れ、音楽に似た模様をつくりだす刃紋技術も加わってこれほど美しい刀剣は世界に類をみない。今世界中から熱い視線が過去の日本刀に注がれていることは当然のことである。問題はこの刀の材料となる鋼は如何に作られたのかが問題である。桃山時代頃から確立したタタラ製鉄の玉鋼も優れた鋼であるが、いまだ鎌倉時代までの鋼には応ばないという定説もある通り、現代刀の作者も鎌倉時代までの鋼を喉から手が出るほど欲しがっているがまだそこに手が届いていないと考える作家は多い。

 私はこの鎌倉時代までの鋼を再現するヒントを最近2020年にやっとつかんだ。内容は明かせないが、古代朝鮮や古代北九州に流通していた鋼の素材が高炭素鋼と低高度鋼の粗い混合鍛造から出来ていることが再現のヒントとなった。

 もちろん合わせ鍛造によって鍛接法をつかってつくり出せる型の鋼ではない。鎌倉時代の名刀の鋼を穴のあくほど観察して、何かつながりがないかを必死で長い間考え続けてきたところやっと鎌倉時代らしき鋼を製造することに成功した。

 ダマスカス鋼についてはもはや失われた製鋼法であるといわれて久しかったが、1842年にロシアのアノソフが、先鞭をつけ、その後チェロノフ、ベライエフというロシア人の研究者が研究を行って1918年の鉄鋼学会の長論文でベライエフが全様を明らかにした。

 その後製鉄関係者たちの理解不足や、量産に適していないダマスカス鋼の製造方法は忘れられてきた。1985年にサイエンティフィツクアメリカン誌に掲載された。“Damascus steel”という論文によって再び世界中から注目を浴びることとなった。この論文を翻訳してほしいという要請を受けて1986年に翻訳してみて私は驚いた。
ウーツ鋼こそ鎌倉時代の名刀の原料鋼になりうるかもしれないという熱い期待を抱いて1986年から仙台の電気炉会社とアルゴン置換管状電気炉を共同開発し2年かかってやっと1988年4月に電気炉による生産に成功した。1ヶずつ小型の坩堝に材料を入れて、種々な炭素量のウーツ鋼を作った。

 その特徴は目を見張るものがあった。溶解状態から極く極くゆっくりと温度を下げていくと坩堝面に少数の鉄の結晶の開始点が出来る。これが鉄の結晶の芽である。そこから内部に向かってまるでモミの木のように鉄の結晶が炭素濃度を徐々に上げながら育っていく。この多数のモミの木の結晶が坩堝の中で成長を終了したときに表面には多数のモミの木状の結晶構造がみえて、ケーキ状の塊りとなってウーツ鋼が出来る。これを切って割面をみれば鎌倉時代の名刀正宗の地景と同様の輝く線状模様が多数みとめられるのである。モミの木の結晶状といったが、現代数学風に表現すればフラクタラル図形がからみ合った状態というべきであろう。

 ダマスカス鋼の研究成果は平成14年と平成17年に『鉄の歴史と文化フォーラム』で発表させていただいた。ウーツ鋼は作製の条件が厳しいせいか日本では私につづいて生産してくれる方がいないのが残念である。

 ウーツ鋼の欠点は炭素量が1.0~2.0%のものは硬すぎて鍛造で割れてしまうことが多く、使うのも困難を伴う。一番鍛造に適しているのは炭素量1.0%の下限のものである。これ以下の炭素量になるとダマスカス鋼とは言わない。さらに炭素量を下げると地景様の模様は少なくなり鍛造しやすくなるが、こうなると鋼は出来るが地景はほとんどなく、ウーツ鋼から鎌倉時代の名刀そっくりのものはまだ出来ない、というのが本当のところである。

 そこでウーツ鋼と日本の名刀はあまり関係がなさそうだということになって、前題の鎌倉時代の鋼の製法に向けての思索と洞察が必要になったわけである。

 そしてその鎌倉時代の名刀の鋼の製造に成功した。  

モミの木状の結晶構造

刃物制作のご注文

 当社の包丁、ナタ、ナイフ、皮包丁、ノミ、(カンナは製作はまだ出来ません)などの注文をうけつけます。

 材料は炭素鋼(スウエーデン鋼、白紙1.2号鋼)や青紙スーパー、東郷鋼(これは払底しているので同じ成分で当社で生産した鋼です)などの最高級合金鋼を使用します。
包丁はすべて「本焼き」(全体が鋼で軟鉄貼り合わせでない日本刀と同様の焼入れをしたもの)です。

 量産可能なものは上記の鋼からつくります。

 ただし 特殊で特別な希望がある場合には「ウーツ鋼」と「粟田口鋼」での生産も承ります。この2種類の鋼は量産が不可能なので白紙や青紙スーパーの鋼からの刃物の3倍の価格とさせていただきます。
納期は半年程度かかります。

 包丁がメインです。ペティナイフ、三徳包丁、5寸~6寸、牛刀、7寸~8寸、柳葉 1尺~1尺2寸、すじ切り、1尺などです。

 20年前に試作した白紙2号の三徳包丁は1回研ぐと1年研ぐ必要がありません。自宅で愛用してます。

  • 当社の刃物をぜひメールでご注文下さい。
    注文が多すぎる場合はバックオーダーがたまりすぎて納期が長くなる可能性があります。
    初期は納期3週間で生産し、お届けします。
  • 包丁には木製の柄が必要であるがこれは既製品の秀れたものを使用します。

    たいていの場合は八角形のものが持ちやすく人気ですので水牛の先端で朴の木の八角形のものを使用します。柄と包丁の茎の部分の調整は極端な厳密さが必要です。柄の中心線と包丁の棟などの線が、3次元の3つの方向でピタリと一致しなければ包丁の使いやすさ達成することは無理なので 細心の注意を払って包丁の茎を包丁の柄の中心に収めて固定します。ご安心ください。

    包丁の木製鞘もありますので希望のある方は申し出ていただければ提供いたします。

※特殊な材料であるウーツ鋼や鎌倉時代の粟田口鋼での包丁の生産はよほどの希望がある方を対象に行います。ただし鋼1個あたりにかかる人件費、電気代、炭代などが膨大になりますので特別生産品となるため費用を計算すると包丁1本50万円とかの値段になってしまうと予想されます。これらの特殊材料での御注文はメールを頂ければ検討してお返事をさし上げたいと考えております。